生物01 オオカナダモの光合成
十分に光に当てたオオカナダモの葉を、漂白剤などで脱色し、ヨウ素液をつけてから顕微鏡で観察します。ヨウ素デンプン反応で青紫色になった葉緑体が観察できるはずですが、なかなかうまくいきません。おそらく中学校の実験・観察の中でもっとも難しいのがこの実験ではないかと思います。成功のポイントは、光と二酸化炭素を十分に供給することだと思います。
【前日までの準備】
ア オオカナダモは、小川などで採集したものがよい。購入したものは、葉の表面に藻類などが付着していて、それが青紫色に染まって観察に支障がでることがある。自然のものは貝などが葉の表面の藻類などを食べてくれていると思われる。
イ オオカナダモを約7cmに水切りする。(水切りとは水中で茎を切ることである。)切ったオオカナダモを水の入った容器に入れる。1クラスで1本使用するので、4クラスなら4本必要である。なお、今回の容器は光が反射するステンレス製を使用している。
ウ CO2レギュレーターを設置し、二酸化炭素を添加する。添加量は、バルブカウンターの泡が1秒に1回上がる程度にする。CO2レギュレーターとは、水槽の水草に二酸化炭素を供給するために市販されている小型ボンベであり、アマゾン等で購入できる。(下写真参照)
ウ 水槽用のLEDライトを使って、丸4日間以上連続で光を当て続ける。丸3日間では不十分である。十分に光を当てたオオカナダモでは、中肋(葉の中央の葉脈)や茎が赤みを帯びることが多い。
LEDライトはできるだけ近づけた方がよいが、近づけすぎると水温が上昇してしまうので、水面から7.5cm程度にする。今回はLEDライトを2本並べて使用した。(下写真参照)
オ 前日に予備実験して、ある程度観察できることを確認しておく。前日に全くダメな場合は本番でもダメなので、翌日の実施はあきらめたほうがよい。
カ 葉は、4枚ぐらいやると、いいものが1枚はできる。各班に4つずつプレパラートを作らせ、顕微鏡で見て、一番いいものをみんなで見るようにすると良い。
【当日の実験方法】
1 オオカナダモの先の方の葉(先端から2~3cmのところ、葉の大きさは2cmぐらい)をとる。
2 60~70℃のお湯で3分間加熱する。ポットの温度表示が80℃になった時にプラスチック製のマグカップに注ぐと大体65℃ぐらいになる。熱いのでプラスチック製のマグカップ等を使用するとよい。(下写真参照)
3 5倍にうすめた漂白剤(キッチンマイブリーチなど)で、葉を1分間漂白する。(長くやり過ぎると、葉緑体がふやけたようになって壊れてしまうので、色が抜けなくても1分でやめる。)
4 ビーカーに入れた300mLの水で30秒間すすぐ。
5 うすめたヨウ素液に1~2分つける。葉が青紫色になったら、スライドガラスにのせ、スポイトでヨウ素液を1滴落としてからカバーガラスをかける。(ヨウ素液は、1w/v%のヨウ素液10mLを水道水でうすめて250mLにしたものを使用する。なお、1w/v%のヨウ素液はの0.05mol/Lのヨウ素液とほぼ等しい。)
6 顕微鏡で観察する。100倍で状態のよさそうなところを探して、400倍で観察する。
【その他】
ァ CO2レギュレーターを使用しない場合は、10倍にうすめた炭酸水を使用する。うすめた炭酸水は少なくても1日に2回は取り替える。炭酸水は水と炭酸のみのものがよい。また、容器はできれば密閉できるものがよい。(下写真参照)
以前はこの方法で行っていた。安価に実験できるというメリットもあるが、4日間の間たびたび水を替えるのは、なかなか大変な作業である。
イ 光を当てないものと比較するときは、丸5日以上光を当てないようにする必要がある。丸2日では、中肋(葉の中央の葉脈)のところが青くなってしまう。丸4日でもわずかに青くなる場合がある。これは、以前に光合成で作られたデンプンが中肋の細胞に蓄えられているためではないかと考えられる。また、光を当てなかったオオカナダモを光に当てると急激に光合成する場合があるので、実験直前まで光を当てないように気をつける。下の写真では、左が光を当てたもの、右が光を当てなかったものである。
ウ 中央の葉脈のところだけが青紫色になることがあるが、それでは不十分である。葉の3分の1~半分程度は青紫色になるようにしたい。ただし、やり過ぎると下記の「エ」のようなことが起こってしまうので注意すること。
エ 次のようにすると、葉全体をこく青紫色に染めることができるが、葉緑体がくずれてぼんやりした感じになってしまう。やり過ぎないことが大切である。(下写真参照)
・加熱するお湯の温度を高くしたり、加熱時間を長くしたりする。
・漂白剤で漂白する時間を長くする。
オ オオカナダモの葉をお湯で加熱する理由は、葉を柔らかくしてヨウ素液がしみ込みやすくすることのほか、葉の中のビタミンCをなくす意味もあると思われる。ビタミンCは強い還元力があり、ヨウ素デンプン反応の色を消してしまうはたらきがある。余談になるが、ジャガイモやカボチャ、ナスなどの野菜の中のデンプンを調べる時も、電子レンジで加熱して、ビタミンCを破壊してからヨウ素液をつけると、反応が分かりやすくなる。
カ 今回の実験で使用したCO2レギュレーターは「スドー CO2レギュレーター RG-S タイプB2コンプ ¥12,800」、LEDライトは「寿工芸
コトブキ フラットLED 900 ブラック ¥9,420」である。なお、今回の実践では、LEDライトを2本並べて使用しているが、令和5年7月現在では、はじめからツインになっているものも販売されており、そちらの方が割安だと思われる。(下写真参照)
キ 【考察】この実験が難しい理由について
この実験では、光と二酸化炭素を過剰に与えないとうまくいかないことが多いようです。その理由として、オオカナダモが単子葉類であることが関係しているのではないかと考えています。
光合成では二酸化炭素がトリオースリン酸という糖に固定されます。この糖をすぐに使わないときは、デンプンの形に変えて葉緑体に蓄えられます。しかし、単子葉類では、デンプンではなくショ糖として蓄える植物も多いようです。デンプンを貯める葉をデンプン葉、ショ糖を貯める葉を糖葉といいます。
糖葉では、ショ糖濃度を調整するために、過剰のトリオースリン酸ができた場合、トリオースリン酸をデンプンに変えて葉緑体内に蓄えます。このような理由から、オオカナダモでは、光と二酸化炭素を過剰に与え、過剰にトリオースリン酸を生成しないと葉緑体の中にデンプンを蓄えることができないのではないかと考えています。