生物02 細胞分裂の観察


 「生物の連続性」(3年生)のところの観察です。タマネギの根を採取して染色し、顕微鏡で観察します。観察・実験の少ない単元なので、取り組むことが多いのですが、ひどい場合には、全く見つからなかったということにもなりかねない観察です。成功のポイントは「細胞分裂がさかんな時に根を採集すること」だと思います。


実験のポイント

ア 観察する材料はタマネギがよい
 ネギの種子などでも細胞分裂を観察することはできるが、細胞が大きく、分裂している細胞の数も多いので、タマネギの方が見やすい。しかし、ここで問題となるのは、水につけてもタマネギの根が出ないことがあるということである。次のような点に注意すれば5日ほどでタマネギの根を約5cmに伸ばすことができる。

(ア) 休眠期を過ぎたタマネギを使う
 タマネギは掘り出してから数か月休眠期に入り、この間には水につけても芽や根は出ない 。5月ごろに実験する場合、春に四国で収穫されたものは根が出ない。秋に収穫された北海道産のものや冬に収穫したニュージーランド産のものを使うとすぐに根が出る。新タマネギはもちろん出ないが、見かけは普通のタマネギでも四国産のものは根が出ないので注意が必要である。一番分かりやすいのは、タマネギを半分に切ってみることである。中に緑の芽があるものは休眠期を終えているので根が出やすい。5月ごろに芽の出かかったタマネギを安売りしていることがあるが、そういったものがあれば最適である。

(イ) 水につけるときは大きな容器を使う
 教科書などでは、水の入ったビーカーにタマネギをつけている場合がよく見られるが、これでは水中の酸素が不足するため根の伸びが悪い。丸形水そうにペットボトルで作った筒を沈めて、そこにタマネギを置くようにするとよい。その際、酸素がよく通るように、ペットボトルの筒に穴をあけておくとよい。3個程度ならエアポンプなどで空気を送ってやる必要はない。

 

(ウ) タマネギの下の部分をカッターでうすく削る
 水が染み込みやすいように、タマネギの下の部分をカッターで薄く削るとよい。
 なお、以前使われていた発根を抑制するための薬(「エルノー」マイレン酸ヒドラジドコリン剤)は、現在は使用できなくなっており、そのせいで根が伸びないということはない。そもそも「エルノー」は収穫の1~2週間前に散布するタイプの萌芽抑制剤であり、タマネギの下の部分に塗っているわけでありません。
 休眠期間を長くする方法は低温貯蔵やCA貯蔵などの方法があるようですが、現在では品種改良により休眠期間が長いものが出回るようになっています。

イ 観察する前の日に冷蔵庫に入れる
 最も大切なことだが、細胞分裂が盛んに行われているときに根を採集する必要がある。午前中がいいと言われているが、何時ごろがいいのかはその日の天候などによりはっきりしない。そこで前の日の夕方から、丸形水そうごと冷蔵庫に入れる。そして、実験当日、冷蔵庫から出して熱帯魚用のサーモスタットつきヒーターを18.5℃に設定して入れる。1時間20分ぐらい経過すると細胞分裂がピークを迎える。例えば、4時間目に実験する場合、2時間目と3時間目の間の休憩時間に冷蔵庫から出すとちょうどよい感じになる。この方法のよいところは、冷蔵庫から出す時間を調節すると、3,4時間目はもちろん、5、6時間目でも実験することができるということである。ただし1時間目に行ったときは結果が芳しくなかったので3時間目以降に実験するのがよいと思われる。(注:気温が高ければヒーターは使わなくてもよい。)

ウ 根は、4~5cmのびたもので、根の先が太いものが良い
 できるだけ太い根を選び、根の先端を4mmほどを切って使用する。欲張って長く取っても分裂した細胞を探しにくくなるだけである。

エ 根のつぶし方はスライドガラス十字法がよい
 根の上に別のスライドガラスを直角に重ね、真っ直ぐ上からつぶし、その後スライドガラスを真っ直ぐに引き離す。(この時、絶対に横にずらさないようにする。)そして、酢酸オルセインで2分間染めた後カバーガラスをかける。
 この方法によると、両方のスライドガラスにつぶした根がつくため、1つの根から2つのプレパラートができる。片方のプレパラートで細胞分裂が観察できれば、もう片方からも必ず見つかるので、プレパラートの状態がよくない班に渡すことができる。(下写真参照)


オ 染色液は酢酸オルセインがよい
 染色液は酢酸カーミンよりも酢酸オルセインがよい。ただし、酢酸オルセインは沈殿ができやすいのが欠点である。酢酸オルセインの瓶から、スポイトで必要な分だけ 上澄みの部分をとり、点眼瓶に移して使用するとよい。点眼瓶の中に長期間入れっぱなしにしておくと、点眼瓶の中に沈殿ができて、使うときにゴミとしてプレパラートに入ってしまう。

カ 観察の手順書をつくる
 観察の手順が複雑であるため、観察の手順書を作って生徒に配ると良い。(下図)

観察の手順書

① ビーカー(小:100mL)にうすい塩酸(3%)を5mL入れ、その中にタマネギの根の先端(4mm)を切って入れる。

② ①のビーカーを、そのまま、60℃のお湯の入ったプラスチック製マグカップに入れて、50秒間温める。

③ ビーカー(大:300mL)に入った300mLの水に、②のビーカーの中の根をうすい塩酸ごと、ざばっと入れて、30秒すすぐ。(②のビーカーの中に根が残ってしまった場合は薬品さじで移す。)

④ ビーカー(大)の中の根を薬品さじですくって、つまようじでスライドガラスに移す。

⑤ スライドガラス十字法で根をつぶす。
(スライドガラスをはずすときは、横にずらさず、まっすぐに離す。)

⑥ 酢酸オルセインで染める。(2分間)

⑦ カバーガラスをかける。はみ出た酢酸オルセインをろ紙で吸い取るときは絶対にカバーガラスをずらさない。

⑧ 顕微鏡で観察する。(100倍でさがして、400倍で観察する。) 

 以下の細胞分裂の様子は、1枚のプレパラートの中で見られたものです。1枚のプレパラートの中にいろいろな段階の細胞分裂が見つかるようでないと、生徒の集中力を持続させるのが難しくなります。


【その他】

ア 細胞分裂の写真は顕微鏡の接眼レンズにデジカメを押し当てて撮影したものです。(コメリート法)

イ 観察の前に、どんなものが見えるのか、スライド等を使って十分に見せておくと良い。どんなものが見えるのかをしっかり把握させておかないと、見えていても見つけられない。観察時間を長く取ろうとしてこのことをおろそかにすると逆に失敗する。観察時間は15分あれば十分である。

ウ とにかく分裂している細胞がたくさんないと生徒たちは見つけられない。プレパラートを動かさなくても見つかるぐらいの状態が望ましい。見つからない状況下では、生徒たちの集中力は長続きしないので、5分以内に1つ目が見つからなければ厳しい。

エ 顕微鏡観察の技能が十分でないと見つけることが難しい。1、2年生の時に顕微鏡操作について十分に習熟させておく必要がある。まさに3年間の集大成ともいえる観察であるといえる。

オ 顕微鏡の状態が悪いと見つけることが難しくなる。数年に1回はレンズをみがくなど、メンテナンスをしっかりしておく必要がある。

カ 塩酸処理後の根は非常にやわらかくなっているので、ピンセットでつかむことが難しい。薬品さじですくって、つまようじでスライドガラスに移すようにするとよい。

キ 見つけたらそれで終わりということでなく、班で協力して、いろいろな状態のものをできるだけたくさん見つけさせるようにすると意欲が高まる。(下図参照)

 


参考文献・資料
This is の田のホームページ 「タマネギの細胞分裂を授業で全員が観察する」