小学校03 塩酸でアルミニウムをとかす(6年生)


 小学校6年生の実験ですが、うまくいかないことが多い実験です。12月ごろの寒い時期に実施されることが多いため、塩酸にアルミニウムを入れてもなかなかとけません。とけはじめても、とけるのに時間がかかり、授業時間内で終わらないこともあります。授業時間内に終わらせるにはどうすればよいのでしょうか。
 冬季でも、手軽に実践できる方法を考えてみました。ポイントは、あらかじめ塩酸を使い捨てカイロであたためておくことです。 


【準備物】
1 使い捨てカイロ ファミリーマートで購入
2 塩酸(9%) スマートスクールで購入 1L 2,871円
3 アルミホイル 「サンホイル」 25cmx7m 厚さ11ミクロン
4 スチールウール 「ボンスター」 
5 試験管立て(18mm用 50本立)三和化研 ウチダスで購入 3,030円 (※ ビーカーと100均の水切り網でもできます。)
6 駒込ピペット(5mL用)またはマイクロピペット(1~10mL用)〔詳しくはこのページの最下部【その他、詳しい内容について】を参照〕 


【事前準備】
1 アルミニウム片をつくる。(下写真参照)
 ・アルミニウム箔(幅25cm 厚さ11ミクロン)を適当な長さ(20cm程度)に切る。
 ・1.5cmの幅で折り返して細長くする。折り返すたびに少しずつ太くなるので、幅が1.8cm程度になる。
 ・5mmごとに線を入れる。(シャーペンや竹串などで筋をつけるだけでよい。)
 ・はさみで切り取る。(できるだけ実験の直前に切るようにする。これは、切り口のところが反応しやすいためである。)
 ・できあがったアルミニウムの小片は1つが0.035gになる。
 ・ アルミニウム片は丸めるよりも板状にした方が変化の様子がよく分かります。

 

2 スチールウールは0.1gを軽く丸めて球状にする。

3 試験管に9%の塩酸3.3mLを入れ、あたためる。
 ・使い捨てカイロを袋から出し、よく振ったりもんだりしてから試験管立てに敷く。
 ・塩酸の入った試験管を使い捨てカイロの上に置いてあたためる。下写真の試験管立ての場合、20本程度を一度にあたためることができる。
 ・使い捨てカイロであたためる場合、塩酸が25℃になるのに60分程度かかります。その後は、あたため続けても27℃程度までしか上がりません。 そのため、実験の60~90分前にセットしておくようにします。
 適当な試験管立てがない場合は、ビーカーを使って温めます。100均の水切り網の上にカイロを置き、その上に300mLのビーカーを置きます。300mLのビーカーの中に試験管が11本入ります。(水切り網の上に載せるのはカイロに酸素を供給するためです。)
 ・ ぬるま湯であたためる方法もあります。その場合、短時間であたためることができますが、試験管についた水を拭いてから配るのがやや面倒です。

【塩酸をあたためる理由】
 ・冬季は室温や塩酸の温度が低いため化学反応が進みにくいため、あらかじめ塩酸をあたためておく必要がある。

【注意事項】
うすい塩酸の濃度(9%)や量(3.3mL)を守って実験してください。理由は次の通りです。
 理由① うすい塩酸の量が多いと、反応が激しくなった際に、試験管からうすい塩酸があふれることがある。
 理由② 実験後のうすい塩酸を、次の実験の「塩酸にとけた金属は、とけた液の中でどうなっているか調べる」に使います。その際に塩酸の濃度が濃いと危険です。このレポートでは、実験後の塩酸の濃度が非常にうすくなるように、薬品の濃度や量を計算しています。 


【実験方法】
1 あたためた塩酸(22~27℃)にアルミニウム片や鉄(スチールウール)を入れる。(アルミニウム片はできれば実験の直前に切るようにする。これは、切り口のところが反応しやすいためである。)
2 鉄(スチールウール)は、塩酸に入れるとすぐにとけて気体が発生する。その後も気体が発生しつづけるが、大きな変化はなく授業時間内に全部はとけない。次の日にはすべてとけてなくなっている。
3 アルミニウム片は、入れた直後はほとんど変化がないが、だんだんと反応がはげしくなる。13~15分ごろに最も反応が激しくなるので、蒸気を吸い込まないように気をつける。激しい反応から2分後にはすべてとけて、液全体が灰色になる。その後は、時間がたつにつれ、だんだんと透明になっていく。

【その他】
1 実験時間が長いので、集中を切らさないようにするために記録を取らせるようにする。
  【ワークシート】「実験結果の記録表」
2 アルミニウムや鉄のとけた水溶液は、次の実験「塩酸にとけた金属は、とけた液の中でどうなっているか調べる」に使うので、捨てないでとっておくこと。また、アルミニウムの方は、塩酸の濃度を下げるために、授業後にアルミニウム片(0.035g)をもう一つ入れておく。次の日にはそれもすべてとけて透明に変わっています。鉄(スチールウール)の方は、そのままでも濃度が十分に下がるので、ほっておいたのでかまいません。


【実験結果】
令和5年12月4日 
室温13℃ 実験開始時の塩酸の温度25℃
9%の塩酸3.3mL 
アルミニウム(アルミ箔)0.035g 鉄(スチールウール)0.1g

20秒後 アルミニウムはほとんど変化なし。鉄はすぐに泡が出始める。
3分後 アルミニウムに泡がつく。
5分後 アルミニウムから泡が上がり始める。
8分後 アルミニウムから泡がさかんに上がり始める。
11分後 アルミニウムの反応が激しくなってくる。  
13分後 このころが最も激しい反応となる。  
15分後 反応はおさまり、アルミ箔の形はなくなり、全体が灰色になる。  
25分後 やや濁っているが、かなり透明になる。 

【動画】上記の実験のビデオ「塩酸にアルミニウムをとかす」(4倍速)


【温度の違いによる反応時間の比較】

  金 属 室温 実験開始時の
塩酸の温度
激しい反応にな
るまでの時間 
A アルミニウム(アルミ箔)0.035g 17℃ 25℃ 13分
B アルミニウム(アルミ箔)0.035g 17℃ 17℃ 18分

【動画】 上記の実験のビデオ「温度の違いによる反応時間の比較」(4倍速)


【その他、詳しい内容について】
1 アルミニウムや鉄のとけた水溶液は、次の実験「塩酸にとけた金属は、とけた液の中でどうなっているか調べる」に使う。塩酸を加熱するときに濃度が濃いとにおいがするので、アルミニウムについては実験後、アルミニウム片(0.035g)をもう1つ入れてとかして濃度を下げておく。鉄の方はそのままでよい。
 アルミニウムや鉄がうすい塩酸と過不足なく反応する量については、アルミニウム 約0.07gや鉄 約0.145gが9%の塩酸3mLとちょうど過不足なく反応する。今回の実験では、やや余裕をもたせるため、うすい塩酸3.3mLにアルミニウム0.07gと鉄0.1gをとかすようにしている。
2 入れた直後にアルミニウムの反応が起こらないのは、アルミニウムの表面には酸化皮膜ができているためである。一般的なアルミ箔にコーティングはされていない。(焦げ付かないアルミ箔はシリコンでコーティングしてある。)
3 理科室の室温が高い方が反応にかかる時間は短くなるので、できるだけ理科室を暖めておくとよい。
 また、夏季など気温が高いときは塩酸をあたためる必要はない。例えば室温25℃、実験開始時の塩酸の温度25℃の場合は8分後には激しい反応となる。
4 塩酸の濃度を濃くして反応時間を短くすることもできるが、安全性の面から望ましくないと考える。小学校の先生が手軽に手に入れることができるのは、スマートスクール等に出ている9%の塩酸であるため、今回の実験ではそれを使用している。
5 うすい塩酸をはかり分けるには「駒込ピペット(ガラス)5mL 665円」でもできますが、10mLまではかれるマイクロピペットがあると便利です。安価なものとしては、「ケニス マイクロピペット 1-10mL BDL-10000 8000円」(下写真)がおすすめです。ネットで探すともっと安価な製品(例えば3000円ぐらい)もありますが、安すぎる物はピストンが重くて使いものになりません。マイクロピペットは値段は安くありませんが、あっという間に分注できますから、理科室に1つあると便利です。「ケニス理科機器」等のカタログから購入できます。
 ※ マイクロピペットの使い方はこちら

6 「駒込ピペット(ガラス)5mL」は、理科ウチダス等で購入できます。シリコン製のゴム帽のものがよいと思います。駒込ピペットは先端部が非常に割れやすいので取り扱いに注意してください。
 本体がガラス製ではなく樹脂製の駒込ピペットもありますが、目盛りが不正確です。その場合は、水は1mLが1gであることを利用して、上皿天秤等に水を1滴ずつ落として、どこまで水を吸い上げたら正確な3.3mLになるのかを調べることができます。